Live and Think

A's not-so-secret diary

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20分だけの、出会い

 

大学院のことだったり

言語のことだったり

少し固いお話が多かったから

肩の力を抜いたお話を。

 

 

昨日のこと。

 

私はよくカフェで

課題をしたり論文を書いたりすることが多い。

 

少しの音も無い図書館の自習スペースより、

人のおしゃべりの声が聞こえたり

パソコン作業する音が聞こえたりと

少しだけ雑音がある方が、

私はなんとなく心地よく、集中できるからだ。

 

昨日も同じように、コーヒーショップで作業することにした。

 

私は勉強が捗りそうなスポットを探すまで、

こだわりがある人で、少し時間がかかる。

 

座席の位置が落ち着いたところにあったり、

照明が良かったり、

なんだか眺めが良かったり、

くだらない理由だけど、

「よし、ここだ」っていう場所があるまで、

一通り歩き回って探したり、

狙いを定めて、その椅子が空くのをちょっと待ったりする。

 

 

平日お昼の新宿のスターバックス

思っていたより混んでいたけれど、

窓際の、一番角の、

2人掛けの丸テーブルを見つけた。

いい感じ。集中できそうだ。

 

コーヒーを注文して、

論文を書き始めた。

 

40分くらいして、

頭もちょうどよく集中していたとき。

 

パソコンに集中している視界の脇から

近づいてくる人の気配がした。

 

ふと顔をあげると、

中年の女性がひとり、

何か話しながら私のもとに歩いてくる。

 

「ん?」という表情でその人に返しながら、

かけていたイヤフォンを耳から外した。

 

女性はもう一度口を開いた。

 

「この席、相席、いい?」

 

 

ん、えっと、?

 

私は、少し戸惑った。

近所の居酒屋ならまだしも、

新宿のスターバックス

作業もちょうどはかどってきた時に。

 

そして何より、

他にも同じ類いの二人掛けに座るひとり客がたくさんいるのに、

なぜよりによって私。

 

隣と、前の席のひとり客も

それぞれ驚いたようにこちらを見た。

目があって少し恥ずかしかったけれど、

 

確かに、一人客が集まる大きな団体テーブルも

席は埋まっているし、

 

「大丈夫ですよ。」

 

向かいの席に置いていた自分の鞄を

自分の背中の後ろに置き、

丸テーブルに広がっていた文献や本をまとめて、

私はその人に席を空けた。

 

「ごめんなさいねぇ、ありがとう。」

 

女性は席に座って、何事もないかのように

コーヒーを飲み、チーズケーキを食べ始めた。

 

 

私はパソコンに目を向け直して、

論文作業に戻った。

 

そこから10分ほど、

文献とパソコン、交互に目をやりながら、

私は続けて作業をした。

 

パソコンの向こう側になにげなく目をやると、

女性はまだ、美味しそうにゆっくりとチーズケーキを食べていた。

 

無言でパソコンを打つ私と向かい合って、

60cm向こうでチーズケーキを食べる、知らない女性。

それを客観的に考えるとなんだか滑稽になって、

心の中で、クスッと笑ってしまった。

 

 

私は、

目線をキーボードからはっきりと彼女に移した。

 

 

「今日は、お買い物ですか?」

 

 

いきなり私に話しかけられた女性は、

少し驚いていたけれど、

とても笑顔で、

もはや「よくぞ聞いてくれました」というように、

答えてくれた。

 

「今日、息子のボクシングのデビュー戦なんです。

私、静岡から来たんですけど、もうドキドキしちゃって。

試合より随分前に着いちゃったのよ。」

 

 

さっきの隣のお客も、

ついに相席同士の二人が話始めたことに驚いたのか、

はたまたこの女性の話の内容に驚いたのか、

またこちら側に目線を向けた。

 

私は続けた。

「ボクシングですか!新宿で試合があるんですか?」

 

「そうなの、新宿で。

息子は金融の仕事をしてたんだけど、退職して。

だからとっても遅咲きなんだけど、とうとうデビュー戦なのよ。」

 

「そうですか、ボクシング一本でやってらっしゃるんですね!

それはお母様も、緊張してしまいますね。」

 

 

女性がスマートフォンに目を向けたので、

私もまた、パソコンに目を向けて作業を始めようとした。

 

 

「ほら、これ。」

 

パソコン画面の上に重ねてくるように、

向こう側から携帯画面で見せてくれたのは、

息子が両方の拳をあげてポーズをする

タイトルマッチのポスターだった。

 

 

私のために画像を検索したのだと思うと

なんだか私にも笑みが浮かんだ。

 

私は、とうとうパソコンをゆっくり閉めた。

 

 

「バキバキじゃないですか!笑」

 

私たちはけたけたと笑った。

 

そこから彼女は、

息子さんの話や、

静岡にある景色がいい場所のお話、

最近おばあちゃんになった話(ボクサーのお姉さんにあたる人がお母さんになった)

色々と話してくれた。

 

 

飯田橋はどこにありますか?」

と、聞いてきてくれたので、

 

「新宿から一本ですよ、すぐです。

総武線っていう黄色の各駅停車に乗れば大丈夫です。」

 

二人で乗り換え検索を調べると

新宿からは、11分とあった。

 

試合からはまだまだ時間があるので

人に会ってくると女性は言い、

 

「じゃあその黄色の電車、乗っていけばいいのよね。」

 

「大丈夫ですよ。」

 

「どうも、色々話聞いてくださってありがとう。」

 

女性は、食べ終わったチーズケーキのお皿を持って席をたち

小さく会釈してお店からでていった。

 

女性が私のテーブルにいた時間は、

ほんの20分ほどだったと思う。

 

私は、なんだかその20分がとても楽しかった。

その20分、自分の作業は進まなかったかもしれないけれど、

すごく有意義な時間を過ごした気がした。

 

息子さんの試合まで気持ちがそわそわして

ひとりでいられなかっただけかもしれないけれど、

名前も知らない私なのに、

楽しそうに話してくれた女性を見ながら

出会いの不思議を感じて、

とてもあたたかい気分になった。

 

これだからやっぱり、

自習室よりもカフェが好きになってしまう。

 

 

息子さん、

デビュー戦初勝利してますように。